18/10/2026
964エンジンオーバーホール シリンダー&ピストン
シリンダーは、シリンダーの高さで2グループ、ピストンはボア径で4グループに分かれています。
まずは、それぞれが正しいグループの組み合わせになっているかを確認します。
過去には、違うグループのものが組まれていたり、シリンダーは同じグループなのに、ピストンのボアグループが違っていたエンジンも存在しました。
メーカーが間違えたのではなく、どこかの時点で変わってしまったのだと思います。
964のピストンクリアランスは、0.02~0.03mmです。
ナロー時代はS、E、Tでも、それぞれクリアランスが違います。ナロー時代の0.06mm、0.07mmから、SC、3.2カレラと徐々に狭くなってきて、964では0.02~0.03mmです。
ストロークを伸ばしても、ピストンピンのコンプレッションハイトを短くすることで、ピストンの首振りによるシリンダーへのサイドスラストを抑えることができてきたのだと思います。
それ以上に、MAHLEの鋳造技術とニカシルメッキの技術が上がったのかもしれません。
今回のエンジンは、規定値内でした。
シリンダー、ピストン共に少し黒くなっているのは、WPC処理をしているからです。
また、ピストンリングにもWPC処理をしています。
一番の理由は、フリクションを減らしたい、摩擦熱を減らすことで、油温上昇をおさえたいからです。
空冷ポルシェで油温は、重要な部分です。
WPC処理は、耐摩耗性・耐焼き付き性・金属疲労強度を向上させ、エンジンや駆動系の摩擦を大幅に低減します。
表面形状が微小ディンプル(滑らかな凹凸のある形状)へ変化するので、潤滑油保持機能が付与され、摩擦摩耗特性を向上させます。
WPC処理による寸法変化は1μm以下、つまり0.001mm以下で、マイナス公差になるとされています。
そのため、ピストンクリアランスへの影響は、ほぼないと思って大丈夫です。
そして、ピストンピンにはDLC加工をしています。
DLCとは「Diamond Like Carbon(ダイヤモンド・ライク・カーボン)」の略で、金属表面に非常に薄い炭素系の硬質膜を形成する表面処理です。
非常に硬く、摩擦係数が低く、耐摩耗性にも優れているため、ピストンピンのように高い荷重を受けながら摺動する部分には適した処理です。
最近、ピストンやシリンダーにウェットブラスト加工をしているものを見かけます。
メディアに使われるガラスビーズが、100番200番1000番どの程度の粒度のものなのは分かりませんが、ブラストは基本的に研磨材をショットすることで表面の汚れを落とすものです。
そのため、ピストンクリアランスは広がる方向になり、ガラスビーズによるディンプル形状になる可能性があります。
ピストンやシリンダーのようにクリアランスが重要な部品には、やらない方がいいのではないかなと思っています。
同じ「ショットする」という作業でも、WPC処理とは意味が違います。
また、クランクケースやカムシャフトハウジングにブラストをしているものも見かけます。
クランクケースにはオイルラインがあり、さらにピストンを冷却するための、針の穴ほどの小さなスプレージェットが付いています。
カムシャフトハウジングにも、カムシャフトとロッカーアームをオイルで潤滑するためのオイルスプレーチューブが付いています。
これにも、針の穴ほどの非常に小さな穴があります。
ブラスト後に洗浄はしていると思いますが、問題は、本当に100%メディアが残っていないことを確認できるのかということです。
100%残っていないことを確認できるのであれば問題ありません。
ただ、実際には「100%残っていない」と確認する方法がないように思います。
細いオイル通路の内部まで確認できる内視鏡があるのであれば、話は別ですが。
ウォーターブラストは、非常に良い機械だと思います。しかし、エンジンパーツには向いていないような気がします。
オートエンジニアリングでは、オーバーホール時の洗浄はすべて手洗いです。洗浄台は2台用意して、オーバーホール時の組み立て前の洗浄は、常に奇麗な洗浄液を使用します。
ピストンヘッドのカーボンを落とす時だけ、60℃のお湯にメタルクリーンを入れ、ある程度カーボンを落としてから手洗いしていま。
機械で洗うのとは違って、手洗いのメリットは、洗っている時に細かな傷やパーツの違和感を確認しながら、同時にパーツの点検ができることです。
エンジンオーバーホールの本質は、摩耗・変形・クリアランス・油路・摺動面の状態を確認し、必要な部分を正しく修正して、本来の機能を取り戻すことだと思っています。